不器用なLOVER
tenth imitate
会長室の扉をノックもせずに開け飛込む。
背中で扉を閉めて鍵を掛けた。

「晶?」

透弥さんが眼を丸くしていた。

肩でしていた息を整え、

「何でもないの」

笑い返すと、
眉を潜め、

「何でもないって風には見えないけど?」

ドアに背中を預けたままの私に、ゆっくり近付く。

射程距離に入ってくる前に、

「早く、透弥さんに会いたかったから」

透弥さんの胸に飛込んだ。

眼を細めて抱き締められた腕の中で、私は耳を澄ませていた。

扉の外にはさっきの人が居るかもしれない。

どこの誰か分からないけど余計な心配はかけたくないから。

そのことに気を盗られて忘れていた、透弥さんに抱き締められるのが久々だったことに。

「…晶」

濡れた声にも気付けなかった。

ただ息を潜め背中に全神経を集中させていた。

その時、乱暴に扉をノックする音に体が跳ねた。

透弥さんの体が離れそうになり、

「だっ…ダメ」

背中に腕を回して抱き寄せる。

困ったような声で、

「晶?」

戸惑いがちに髪を撫でられる。

尚も響くノックに透弥さんが息を吐く。

駄目だ透弥さんを困らせてる。

アイツじゃないかもしれないし。

見上げれば優しく見つめ返され、

透弥さんから離れた。

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