雪に埋もれた境界線
第二章 高級料理
 応接間を出ると、磯崎の案内でぞろぞろと玄関から真っ直ぐ奥に伸びていた廊下に出て、一番奥まで進むと、右側の扉の前に立った執事の磯崎が振り返った。


「どうぞ、ここが食堂でございます。皆様お入り下さいませ」


 一同は少し緊張気味に、食堂へ入っていった。

 食堂は、長方形の大きなテーブルが真ん中にあり、それを囲むように椅子が十個置かれていた。そしてテーブルには、候補者達の名前が書かれたプレートが置かれており、席は決まっているようであった。食堂の壁には、有名な絵画が飾られており、応接間で見かけた動物らしき奇妙な像と同じ物が棚にたくさん飾られていた。やはり大きさは、応接間の像と同じくらいである。

 そして左側の壁には不思議な形をした掛け時計があり、時刻は午後七時を示していた。

 黒岩玄蔵氏は、あの奇妙な動物らしきモチーフが好きみたいだな。どの部屋にも飾っているのだろうか。それにしても趣味悪いな。陸は喉の奥でククっと笑った。


「皆様どうぞ、ご自分の名前が書かれている席に」


 執事の磯崎は候補者達に座るよう促し、全員が席に着いたことを鋭い目で確認すると、再び説明を続けた。


「旦那様からの指示で、候補者の皆様には明日、旦那様が一人ずつ面接を行いますので、候補者全員の携帯やノートパソコンを私が預からせて頂きます。何故なら面接では試験とまでは申しませんが、ある程度、色々と質問に答えて頂きますので、外部との接触は控えて欲しいのでございます。ここまでで何か、ご質問がある方はいらっしゃいますか?」


「筆記試験ではないんですよね?」


 相馬貴子が不安な顔をしながら、小さい声で質問した。

 それに対し磯崎は、相変わらずの無表情で頷いたので、筆記試験ではないことに、候補者達は皆安堵している様子だが、陸だけは首を傾げていた。



< 12 / 95 >

この作品をシェア

pagetop