キミは聞こえる
三章『目覚めるとき』
「じゃあ代谷さん家事全般得意なんだね。すごいな」
「べつに、得意ってほどでも……」

 泉は弁当の白米をつつきながら気重くためいきをこぼした。

(この人って、こんなにテンション高い子だっけ?)

 勉強合宿以来、なにかと泉にくっついてくるようになった栗原佳乃こと通称、挙動不審さん。

 泉は自分の味方になってくれる人とでも勘違いしているのか、気づけば仲良しこよしのように隣に前に斜め後ろにくっついている。

 しかし、それほど近くにいるのに、

 誰が見ても仲がいい友達同士に思えるほどキャピキャピしていることはまず―――というか、皆無に等しいため、
 

『仲が良さそうにはとても見えない』


 と千紗や響子などは不思議そうにそう言う。

 自分しか見えていないナルシストなわけではまったくないのだけれど、他人に対してほとんど興味がないことが自然泉の口数を増やそうとせず、それで一方的に佳乃が話しかけているように周りには見えてしまって、

 結果、そう思わせるのかもしれない。

 素直に喜んでいいのかいまひとつわからないが、友情など面倒の代表格だ。

 だからそう見られることはきっとありがたいことなのだろう。

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