月と太陽の事件簿13/アルテミスの翼
トラブルはもう一度
翌日は朝からCM撮影だった。

「翼さんが引退する可能性は薄いな」

達郎兄ちゃんがあたしたちにそっと耳うちした。

昨日、杉田さんとのミーティングの際に、探り出したんだろう。

「当然じゃない」

あたしはふん、と鼻を鳴らした。

昨夜の翼さんの決心を聞けば、誰だってそう思うはず。

でもそれを知らない達郎兄ちゃんは「なんだ」と首をかしげた。

だが、あたしは昨夜のことを、話すつもりはなかった。

だってあんないい話、ペラペラ喋ったらもったいない。

それに何でもお見通しの達郎兄ちゃん相手に、内緒話があるってことがなんか嬉しかった。

スタジオ到着後、翼さんの着替えのため、楽屋に向かった。

杉田さんがドアを開け、中を見渡す。

その動きが、ぴたりと止まった。

「?」

あたしが首をかしげるより早く、達郎兄ちゃんが部屋に入った。

あわてて杉田さんが後を追う。

翼さんがつられるようにして楽屋に入り、あたしたちもそれに続いた。

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