雨音色
展開
「お嬢様」


部屋で髪をとかしていると、タマが部屋に入ってきた。


「何?」


鏡台に映るタマが、彼女を見て微笑んでいた。


「お嬢様が鼻歌を歌ってらっしゃるのは、久しぶりでございますね」


両手にベッドシーツを抱え、目を細めてタマが言う。


「そうだったかしら」


出鱈目な旋律に乗せたその歌を、彼女は恥じることなく歌い続ける。


長い髪を丁寧にブラシでとく。


丁寧に、丁寧に。


「・・・好青年だったそうですね。今日の方は」


ベッドの上に真っ白なシーツが勢い良く広がった。


髪を梳く手が、一瞬止まる。


「・・・お父様がそう仰っていらしただけでしょ」


幸花がブラシを鏡の前に置いた。


長い髪を三つ編みに編んでいく。


「お嬢様。恋は女を綺麗にしますよ」


幸花は勢い良く彼女のほうを向いた。


心なしか、その頬が赤く見える。


「タマ!そういう事じゃないわよ。私はただ・・・」


「はいはい。早くお休みになられてくださいな」


レースが施された寝巻きが、床の上をかする。
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