ほどよい愛

ほとんど意識がない斉藤と、彼女を送っていく葵を乗せたタクシーが走り去るのを見送り、俺は軽く溜息をつく。

今夜は俺の部屋には来ないよな。
来い、とも言えないか。たとえ来ても明け方には帰るあいつ。
ここ最近続いていた残業のせいで、かなり疲れているはず。
俺の部屋で過ごしても、必ず自分の車で帰ってしまう。
眠っているふりなんかやめて、何度ベッドに引き戻そうとしたか、あいつは気付いていない。

そうしたいのを抑えてしまうのは、帰り際にささやくあいつの泣き声。

『帰ります』

本当は帰りたくないなら、どうして帰る?

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