吸血鬼の花嫁






ミルフィリアが帰り、疲れてぐったりとしているルーの隣に座った。


「有難う、ルー。そして気を遣わせてごめんなさい」


ルーはちろりと恨めしそうに私を見る。


「まったくだ。あの我が儘吸血鬼の相手は大変なんだからな」

「あら、でも我が儘なのはルーに対してだけなんじゃないのかしら?」


ミルフィリアはルーに対する時だけ、幼い顔をした。

わざと聞き分けのない子を演じて、気を引くかのように。

ルーが複雑そうに顔を歪めた。


「…あいつ、俺についてなんか言ってたか?」

「…え、ええと、その」


本人にばらしてもいいものなのだろうか。

私が悩んでいると、ルーが先手を取って口を開く。


「……。あいつが、俺を好いてることは知ってる」


淡々と明かされたのは、意外な事実だ。


「え、そうなの?」

「あいつも俺が知ってるってことを分かってるしな」

「それじゃぁ…」


なぜ気持ちに答えてあげないのだろうか。

二人共、分かっていて、何事もないかの風に装っているなんて。


隣のルーの表情は晴れやかなものではなかった。


「なあ花嫁。あいつ、何歳に見える?」

「十歳ぐらいだけど」


唐突な質問に、私は内心首を傾げる。


「だろ。…だけど俺は、外見が十四歳でも中身は違うんだよ。

実際はどうあれ、外見が十歳の奴じゃ、恋愛対象にならねぇ。俺にそんな趣味はない」

「あぁ…それで…」


ミルフィリアは、ルーの人としての倫理感が邪魔をすると言ったのだ。


「嫌いなわけじゃねぇけど。でも、無理だ。あいつはどこからどう見ても子供にしか見えないから。

せめて花嫁ぐらいの年頃だったらなぁ…」


後半は、ぶつぶつとルーが独り言のように呟いた。

声が小さすぎて、よく聞こえない。


「え?」


私が聞き返すと、ルーがはっと我に返った。


「…なんでもねぇ。

あのな、俺は誰かが誰かを好きになって、その誰かが同じ思いを返してくれるなんてことは、凄いことなんだと思う。

だからこそ、俺は同じ思いを返さなくてもいいんじゃないかって思ってる」



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