腐ったこの世界で

*新しい生活



馬車は悪路を抜け、やがて整備された街道に出た。最初は色々な人で賑わっていた街も、閑静な住宅街に入るとその喧騒も消えていく。

「……どこに向かってるんだっけ」
「僕の屋敷」

さっきと寸分変わらない答え。あたしはここに来て、重要なことを思い出した。目の前に座る男が貴族だということを。
ここは間違いなく貴族たちの屋敷が並ぶ高級住宅街というやつだ。あたしなんかが一生来るはずがなかった場所。馬車が止まったのを感じて、物見窓から外を見る。そして目眩がした。

「着いたみたいだね」

目の前にはバカでかい屋敷。なんだこのでかい屋敷は。何人で住んでんだ。「これ…?」頷く伯爵。反応を見る限り、伯爵にとっては普通らしい。あたしには異常だけど。
どうしよう。あたしはだいぶ場違いなところに来てしまったようだ。なかなか降りようとしないあたしを見て、伯爵が不思議そうに首を傾げる。

「どうした?」
「無理無理無理無理……」

壊れた人形みたいに首をふるあたしに伯爵はおかしそうに笑う。笑ってるけどね、あたしにとっては別世界なの! こんなとこ来るような人間じゃないんだって。
いつまでも馬車から降りようとしないあたしに、伯爵は苦笑しながら手を伸ばしてくる。そのまま体を抱き上げて馬車から降りようとした。

「なにしてんの!?」
「何って……降りようとしないから」

そういうことを言ってんじゃないの!!


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