駆け抜けた少女【完】

第四話*悲しき記憶






桜が舞う江戸の町。


近藤華緒は、ツネに頼まれ使いに出ていた。



「おう! お華か、今日は何を揃えに来たんでぇ?」

「今日は、お味噌だけです」


にこっとお華が微笑むと、何故だか微笑ましく誰もが安らげてしまう。


試衛館の者だけでなく、この町でお華を知らない者はいない。

それは少女の人を惹きつけて止まない姿と、少女の生い立ちにある。


近藤家に引き取られる前のお華の名前は、淺乃華緒。

町外れにある"神社"の娘だった。


神社は小さいが、古くからそこにあり曰わく付きの神社として有名であった。


神が宿る大木があると言われ、その昔雨が降らず困っていた村人達が空を覆い隠すように立ちはだかる大木に祈った。

すると不思議なことに、それから数日間雨が降ったという。


未知の病に苦しめられた時も同じように祈れば、一夜にして病伏せる者はいなくなった。


神社は、神の宿る神社として守られてきたのだ。


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