『縛』

/偶然

よほど、涙の理由が
気になるらしい。

強引に車に押し込まれ、
今日もまた、同じ事を
聞かれている。

隠す必要もないが、
赤の他人の彼に、
話す必要もない。

だけど・・・


「この所、寂しかったんだと
思う。」

口を開いていた。

自分でも、はっきりしない。

わかるのは、それだけ。

原因は、不明。


本当に・・私
わかってないの?

「寂しい、か。」

志央は、その答えじゃ、
満足いかないのか、
言葉を反芻していた。

が、

「オトコ、いないの?」

突然、そう返して来た。


「えっ?」


「あ、ゴメン。
ダイレクトすぎた?
わかれたとか、男関係かと
思って。」

「自分でも、よくわからない。
言われるまで、泣いた自覚すら
なかったし。」

そう答えながら、
窓の外に意識を向けた。


西の遠くの山合が、ほの明るく
夕焼けの色を残すに留まり、
空は、すっかり夜の暗さに
覆われていた。


「ずいぶん、色々、
溜め込んでるんだな。」

彼がいう。

そうかもしれない。

対抗車のライトが、
眩しくて、瞼を閉じた。



 
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