桜の下で ~幕末純愛~

弌ノ一

文久3年 春

「桜、綺麗ですね。ね、土方さん」

整った顔立ちの少年【沖田総司】が笑いかける。

「江戸の桜も満開でしょうね。」

「俺は梅の方が好きだ」

隣に立つ【土方歳三】が答える。

「はぁ、もう少し気のきいた返事があるでしょうに」

「うるせぇ」

「あ、そうだ、これから皆さんを誘って河原へ花見に行きませんか?団子を持って」

沖田は団子の部分を強調して目を輝かせながら言う。

「そんなに暇じゃねぇ。大体、総司の目的は団子だろ」

土方の返事に頬をぶぅっとふくらませた。

「そんな事ないですよ。桜を見ながらの団子は格別なんですから。ね、行きましょう。私、美味しい団子の店、知ってるんです」

「暇じゃねぇと言ってるだろうが」

怒鳴る土方を引っ張りながら歩いていると、優しげな声がした。

「楽しそうじゃないか。どこにいくんだい?」

声の方を振り向いた沖田は団子の時と同じ位に目を輝かせた。

「近藤さんっ」

声の主は【近藤勇】この壬生浪士組の局長だ。

「土方さんと団子持って花見です」

「勝手に決めるんじゃねぇ。いつ俺が行くと言ったんだ」

怒鳴る土方を近藤がなだめる。

「まぁ、まぁ、トシ。そう大声を出さなくてもいいじゃないか」

「ですよね。あっ、近藤さんも行きましょうよ」

沖田は土方を掴んでいる手と逆の手で近藤を捕まえる。

「おい、近藤さんにまで何してんだ」

その時、屯所の桜が沖田を包む様に風に舞った。

「!!!」

「「総司っ!」」

桜に包まれた沖田は消えた。

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