Love Step

事故

「いたたたた……」


ドロだらけのヘルメットを取るとバイクの下敷きになっている足を引き抜く。


痛い事は痛いが酷い痛みではない。


良かった、折れてないみたい。


横滑りしたせいでドロだらけのジーンズは破れてしまっていた。



「大丈夫ですか!?今、救急車を呼んだから動かないで下さい」


焦った若い男の声が聞こえた。


その声に恐怖心が沸き起こりパニックに陥る寸前だ。



「い、いやっ!こっちに来ないで!」


杏梨の金切り声に若い男の足が止まった。



事故のショックのせいもあるが、近づいてきた若い男のせいで杏梨はぶるぶると震えた。


その姿に事故の当事者の男は心配になる。



「峻(しゅん)くん、大丈夫だった?」


きれいな透明感のある女性の声がした。


杏梨は若い男を見ないようにしてその女性の方を見た。


「あ……」


杏梨は言葉を失った。



「大丈夫ですか?まあ、ドロだらけ……峻くん、救急車は呼んだ?」


ピンクの花柄の傘をさしたその女性は先日雪哉の店で会った女優の三木 彩だった。



「呼んだよ」


彼女は杏梨の事を覚えていないらしい様子で近づいてきた。


華奢なパンプスがドロだらけだ。


「女の子だったのね?ごめんなさい 痛いでしょう?今救急車を呼んだからね?」


杏梨が男の子に見えるのも無理はない。


髪はベリーショートで着ている服はジーンズにだぼっとしたグレーの上着だったから。



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