未来のない優しさ




住み慣れた部屋のあちこちに段ボールが積み上げられていく。
来週の引っ越しに間に合うのか不安になりながら必死で。

健吾の部屋も一緒に引き払う事になって、午前中はお互いの部屋に篭って埃にまみれていた。

気付けば3時を回っている。

ハードな仕事量をこなした後の週末は、大抵部屋でまったりと過ごして疲れをとるけれど、そうも言ってられない。

無理ばかりをしている体に残っている力を何とか呼び出してはクローゼットの服を仕分けして…
キッチンも片付けなきゃ…。

ため息をついていると、携帯が鳴った。

寝室のサイドテーブルに置いてある携帯を見ると

「葵ちゃん…」

結婚式間近の葵ちゃん。
どうしたのかな…。

「もしもし。葵ちゃん?」

『こんにちは。今いいですか?』

聞こえてきた明るい声に少し気持ちが癒される。
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