アリスズ

農林府


 黒い豹の出てくる夢を見た。

 景子は、ベッドの中でふわぁと大きなあくびをして、腰の痛みに完全に覚醒した。

 あくびひとつで、まだこの騒ぎだ。

 バターン。

 そんな彼女の部屋の扉が、ノッカーも鳴らさずに豪快に開けられた。

 この屋敷で、そんな技が出来るのはひとりだけ。

「お、おはようございます…」

 景子は、横になったままでいるわけにもいかず、腰の痛みをごまかしながら、よろよろと半身を起き上がらせた。

「難儀しているようだな」

 そんな景子の様子に、ニヤニヤ顔のロジューが立っている。

「どぉれ…大事な腰だ、見せてみろ」

「あ、いえ…もう大分いいん…うぐっ!」

 彼女の行動を止めようと慌てたために、彼女は墓穴を掘った。

 痛みに、動きを止められてしまったのである。

「足をやっただけかと思っていたが…そのザマだったか」

 ぷつんっと、ロジューは髪を抜く。

「いや、ほんとに…あの…」

 痛みをこらえながら、景子は右手に金の炎をともす彼女にストップをかけようとした。

 大体。

 景子は、ロジューの前では特に腰が痛い素振りを見せないようにしていたため、彼女は気づいていなかったのだ。

 なのに、わざわざこんな朝から部屋を襲撃してきたのは、誰かから聞かされたからなのか。

 誰か。

 ちょっと、考えたくなかった。

「お前が痛がる度に、腹の中の子も痛がっておろう。気にするな…愚甥の手紙も、うるさくお前を助けるように書いてあったしな」

 動けない景子をいいことに、軽く片手で彼女の動きを封じると。

 ロジューは、金の炎を腰に押し付けてきたのだ。

 あうう。

 シャンデルは、景子宛だけではなく、ロジュー宛の手紙を預かっていたのか。

 甘ヤカシスギデスヨ。

 景子は、耳まで真っ赤になりながら、その金の炎の温かさが腰にしみるのを味わった。

「スレイピッドスダートからも、目障りだから治せと言われている」

 そして。

 ロジューに言いつけた人間の名を出され──景子は、そのまま小さくなっていったのだった。
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