天使の足跡






土曜日の休日になると、僕はバイトで稼いだ給料で、楽譜を買いあさった。


最近の歌で、ギターで弾けるものを選び練習し、十分にギターの腕を磨いた上で新しい作曲に踏み切ろうと決めていた。





昼になってアパートに戻るなり、ギターを取り楽譜を広げた。

ベッドの上で胡座をかいている太田は、それを一冊取ってパラパラめくっている。


「ギター、弾けるんですか?」

「まあね。本当はさ、歌いたくてこっちに来たんだ」

「親は許してくれた?」

「ううん、口実作って出てきたから」

「やっぱり」


やっぱり? 

僕には何が「やっぱり」なのか検討もできなかったけど、それほど気にもしなかった。


その話題に乗って、僕は太田のことを尋ねてみる。


「太田は? 夢とかないの?」

「小さい頃は、医者になりたいって思ってました」

「それ、かっこいい!」

「今は違いますよ。勉強とか試験とか、自信ないし。だから、普通に就職して、普通に生活できたら、それでいいです」


と言って、ごまかされた。


きっと勉強の問題ではなくて、話したくないだけに決まっている。

なぜなら、彼は秘密主義者と言っていいほど、自分のことについて多くを話したがらないからである。

聞かれなければ答えないし、聞かれたくないことは絶対に話さないのだ。


「槍沢くん、何か歌って」


僕は首を横に振ったが、彼が「お願いします」と微笑むので、仕方なくギターを抱え直す。

そんな顔をされて頼まれたら、断るにも断れない。


「下手クソだよ? いいの?」

「だったら尚更聞いてみたいです」

「げっ、嫌な奴! ……じゃあ何も言うなよ、緊張するから。それから、演奏中はずっと他の方向いてて。頼むよ」


とか言いながら、今まで散々練習してきた曲を、恐る恐る演奏し始める。
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