ハルジオン。

(三)

(三)


目を開く。

達也は思考を止めたまま、ぼんやりと五感が戻るのを待った。

二重、三重に霞んでいた視界が、少しずつ焦点を取り戻していく。

「……眠ってたのか」

いつの間に……と呟き、洞穴の中でゆっくりと体を起こす。

騒然と生い茂る木々。

その上空を名前も知らない野鳥が飛び去っていく。

――ザザッ

視覚とほぼ同時に聴覚が戻ると、葉ずれの音がかすかに聞こえた。

雨は、止んでいた。

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