【短編集】フルーツ★バスケット

迷い


 これまで、学校と家と塾の往復だけをしてきた。

 良い大学に入る為だから、別に苦ではなかったの。

 そして、今この秋の大事な時期になって、夢心地のドキドキの毎日が加わった。

 決して、今までが上位トップにいたわけじゃない。

 だから、油断は禁物なんだけど、息抜きだって必要でしょ。

 なんて、口実を付けて息抜き以上に楽しんだ。

 少しでもみんなに近づきたいから、廉くんに認めてもらいたいから。

 毎日、親が布団に入った頃を見計らって、イヤホンを付けてエレクトーンを久々に弾いてみた。

 成績、落とさないようにしないとね。

 意気込みは有るけど、現実は、そう甘くはない。

 学校の宿題、予習、復習、それに塾とキーボードの練習は流石にキツイね。


『藤木、最近授業に身が入ってないようだけど、何か心配事でもあるのか?』

『受験だけが、本番じゃ無いんだ。
 今、一番大事な時だからな』

 先生は、毎日オウムのように言ってくる。

 分かっているけと、今のあたしには全てが大事なの。

 勉強も、音楽も。

 この時間は今しか出来ないんだよ。

 だって、大学合格したら、もう一回ライヴに行くんだから。

 でも、その前にGRAPEが無くなるなんて嫌。

 ノートを取り損ねたら写せばいいよね。

 日が経つごとに、段々自分に言い訳ばかりするようになっていた。



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