あひるの仔に天使の羽根を

・嘆き :櫂Side

櫂Side
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芹霞の後姿を見ながら、俺は僅かに溜息をついた。


煌の元に行く芹霞を見送るなど、気分がいいものではない。


むしろ――非常に気分が悪い。



俺は気分転換にデッキに出た。


船はもう出港し、潮風が強かった。


青かった空も、まるで今の俺の心を投影しているかのように、澱んだ鈍色をしている。


雨でも降るのか。


――櫂、俺芹霞とキスしたッ!!


馬鹿正直に告白してくれた煌のおかげで、2ヶ月間も俺の心は暗雲が立ち込めている。


しかも、玲の奴。


芹霞を真っ赤にさせて何を囁いたんだ?


絶対、玲も…何か仕出かしている。


あいつさえ我慢できない程、芹霞を想う気持ちは増大してしまったのか。


もう誰も彼もが、動き出そうとしている。


もう、ただ耐えて黙っているだけでは、手に負えない程の激情を抱えてしまっている。


そして俺は――。


芹霞を見る度、心が痛んで仕方が無い。


少なくとも、2ヶ月前までは俺には強みがあった。


誰にも真似できない、俺だけの方法で、俺だけの愛し方で芹霞を護り続けていた。


それが無くなってしまった今――。


俺には、俺の強みがよく判らなくなってしまっている。


むしろ8年前の姿に戻り、芹霞の愛を乞おうかとさえ思うことがある。


そうした心の揺れを、芹霞は勘付いていた。


だから――。


俺の頭を撫でたんだ。

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