花嫁と咎人

偽憲兵と黄昏


「…凄いわ、こんなに近くに街がある…。」


思わず感嘆の声を上げる。

何もかもが綺麗に見えた。
赤い屋根の家や、道を歩く人々。

本来なら当たり前であろうすべての事が、私には特別に見えた。

貴族ではない、普通の人。
豪華な服を着ていない只の国民。

そしてずっと奥には、真っ青な……海が広がっていて。


「……青いわ、海は青いのね!」


私は初めて海が青いことを知った。
よくエルバートが海は綺麗なものだと言っていたが…


“真実は、自らの目で見てみなければ分からぬものです。”


いつもそう言って詳しくは教えてくれなかったのだ。


「…ったりめぇだろ…。ったく、海の色も知らねぇなんて…本当に姫さんだったんだな。」


再度呆れたようにハイネに言われたが、そんな事気にしていられないくらい…
私の心は躍っていた。

早く街に出てみたい。
沢山の人とお話してみたい―…!

そんな気持ちが私を動かしたのか、足はだんだんと丘を下っていく…が。


「おいこの馬鹿女王!一体どこ行くつもりだこのアホ!」


がしっとハイネに腕を掴まれ…私は振り返る。


「アンタな…この国の地図さえないのにどうやって逃げるつもりだ!いいか、俺達はあくまで罪人、アンタは女王で俺は死刑囚にして脱獄犯!…それを忘れるな。この国が変わらない限り…俺達に自由は無い。」


血相を変えて私を見るハイネを見て、私はハッと我に帰った。

……そうだった。

私たちは…罪人。
…国から追われる身。

国内視察に来ているわけではないのだ。
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