Dear my Dr.

婚姻届

“伊崎”の印鑑を押す時、ちょっとミスったかなって思った。

あー…やっぱり。

私って、印鑑押すの、なんでこうヘタクソなのかなぁ。

「もー、伊崎さん。またハンコが横向いちゃってる!」

「根性が曲がってるみたいで…」

そう冗談を言いながら、今日も変わらず仕事をしてる。

退職まで、あと少し。

アメリカに行くまでには色々しなきゃならないから。

むこうの家も決まった。

悠ちゃんの大学の先輩が住んでいた家を、そのまま譲り受けて借りることになったんだ。

英語の勉強もしなきゃならない。

大学時代には、それなりに話せたほうだとは思うけど…

しばらく使ってないと忘れちゃう。

ちなみに、悠ちゃんは英語を不自由なく使える人。

英語を専門にしてた私よりも。

悔しい。

悠ちゃんは言う。

学会では日本国内でも英語でプレゼンしなきゃならないんだよ、って。

お医者さんは大変だ。

そういえば、何気なく読んでる専門書も、全部英語だったりする。

あの頭の中はどうなってるの?

普通の人よりも多く詰まってるんだろうか?

それともシワが多いんだろうか?

脳外科医の悠ちゃんが言うには、シワ説のほうが有力だって。

その理由は…説明してくれたけど、難しくてちょっと覚えてない。
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