Dear my Dr.

理由

どんな顔して玄関をあけようか…

そんなことを考えながら、マンションのエントランスに入る。

出た時と何も変わらないロビー。

大理石の床にヒールの音が響いた。

そこに、よく響く、彼の声。

「……美波っ!」

向こう側からやってくる悠ちゃん。

まるで、迷子の子供を見つけた親みたいな顔をしてる。

「よかった…帰ってきてくれて…」

私、まだ怒ってるんだけど…。

そんな私の想いも知らず、安堵した表情を浮かべている。

口もきかずに、そのまま素通りしようかと思ったのに、先回りしてエレベーターのボタンを押されてしまった。

エレベーターを待っている間、何て話そうか、迷っていた。

なのに、突然私の足元を見て言う。

「美波、足ケガしてんじゃない!?」

普段人の頭を切ってるお医者さんなのに…その大げさな反応にビックリ。

「…ただの靴ずれだよ」

「ダメだよ、痛いでしょ?」

「大丈夫だって…」

「おんぶしてあげよっか?」

「いらないよっ」

恥ずかしくなって、思わず赤くなってしまう。

もう……

そもそも何で怒ってたのかも忘れちゃうじゃないの!?

エレベーターが来て、ドアを押さえててくれる悠ちゃんの後から乗り込んだ。


< 109 / 120 >

この作品をシェア

pagetop