ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―

3

 フラワー・オブ・ライフの曲を録音したCDをもらい、
ミツはすぐにiPodに入れた。
ライブどころか、ミツはまともな撮影をしたことがない。
風景や友人を相手にカメラを回し、
素材をつないで編集したことがあるくらいだ。
ましてや、ライブとなれば一発本番。
ミツにとっては低いハードルではなかったが、
ほとんど白紙で本棚の片隅につっこんであったクロッキー帳は、
ミツのアイディアでどんどんページを埋めていった。

一曲、一曲のイメージを映像におさめるためのアイディアが、
次から次へと思い浮かんだ。
夜には洋二の部屋へ行き、そのアイディアを嬉しそうに話す。

「一曲目のイントロはさ、一番後ろから撮ろうと思うんだ。
ステージが明るくなって、4人のシルエットが浮かび上がって、
洋二の歌が始まるんだ。」

 ミツは鉛筆で画コンテを描きながらミツに話す。
洋二はうなずきながらミツの描き出す鉛筆の線を追う。

「なぁ、全部ライブの映像ってのもいいけど、最終的にPVみたいになったりしない?」
 洋二は画コンテを覗き込んでつぶやいた。
ミツは洋二と目を合わせ、
「それイケるよ!確かに全部ライブの映像でつなげるのは、借りられるカメラの数からいって無理だ!」
 ミツは人差し指を立てた。
「なんだよー、超現実的な問題じゃん!」
 洋二は力が抜けたように宙をあおぐ。
「少ない予算で撮り方を工夫する!これアマチュア映像作家の基本!」
 ミツは鼻の穴を大きくして、誰かの受け売りを口にしてみた。
「なんだよ、ミツ。そんなに真剣にやってたなんて知らなかったぞ。」
「うるさい!・・・おれは、やっと、マジになったの。」
「ふぅん。」

 ミツは再び画コンテに向き合った。
鉛筆が粗い紙の上をすべる音が響く。
「洋二の歌ってるとこ見てさ、マジにいいと思ったから。」
「マジだ。」
「おお、マジだ。わかんねえけど、マジだ。」


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