ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―

2

ミツは薄暗い六畳間で、数週間前までかじりついていた
マッキントッシュのモニターをぼんやり見つめていた。

モニターに流れるのは、フラワー・オブ・ライフのPV。
コンペで箸にも棒にもかからなかった、ミツの生まれて初めての映像作品。

頭も心も、郵送で届いた選考結果を見た瞬間から止まっている。
アップテンポの曲と、自分たちで作った音楽を奏でるメンバーたち。

ミツは、この映像で四人と肩を並べられたような気になっていた。
自分で作った映像の中でも、燦然と輝くフラワー・オブ・ライフ。
叫び続ける洋二の姿。

ミツの頬を涙が伝った。
瞬きをすると貯まった涙がぼろりと落ちた。
体内からそのまま滲み出た熱さを持った液体。
我慢できずにミツは嗚咽を漏らした。
そうするともう、止まらなくなった。

子供のように声をあげて泣いた。
握り締めた拳で膝を打った。

自分の情けない泣き声が耳に入ると、そんなに泣くことないよな、
と冷静に思う自分もいる。
しかし、溢れ出る嗚咽を止めることができない。
デニムの膝に涙の丸い染みがいくつもいくつもできた。
洟がたれ、息が苦しい。

ミツは体を丸めて口を塞いだ。
それでも涙がこぼれ落ちた。

ミツは、しばらくそうしていた。
そして体を起こし、今まで撮り溜めたフラワー・オブ・ライフの映像を
荒編集したものを再生した。
モニターに映し出される四人。

まぶたが痛い。
鼻の奥も痛い。
そこにミツはいない。

もちろん撮影しているのがミツなのだから当たり前なのだが、
それがミツには余計悲しく思えた。
また、新たな涙が頬を伝っては流れ落ちていく。

電気をつけないボロアパートの一室に、小さなモニターから光が溢れる。
柔らかな光はミツの濡れた頬を反射して、時折光っては、ぽとりと消えた。
閉まりの悪い蛇口が、水滴を落下させ、シンクを叩く音が響く。
 
 追いかけて 好きといえ
 おまえはいつも 後悔ばかり
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