貴方に愛を捧げましょう

たゆたう日々



瞼越しに当たる明るい陽の光で目が覚めた。

そこで、おかしな事に数点気付く。


まず、あたしの身体はベッドの上にいない。

あたしの身体をくるんでいるのは、黄金色の毛が生えた何か。

何も考えず、それにそっと指を滑らせた。

ふわふわで暖かくて、すごく気持ちいいけど……これって、何?


起き上がって──はっとした。

寝起きのぼんやりした思考が冴えてきて、眠ってしまう前の出来事を思い出す。

あたしはゆっくりと後ろを振り返った。


そこには案の定、恐ろしく美しい顔が、黄玉を嵌め込んだような瞳が、こちらをじっと見つめている。

僅かに首を傾げ、妖艶な微笑みを浮かべて。


「寒くはありませんでしたか…?」


思わず、すっと目をすがめた。

何を言い出すのかと思ったら……あたしの心配?

一体、何を考えてるの。


「今は夏よ。寒いわけないじゃない」


答えながら彼をよく眺めると。

きっと一晩中あたしを包んでいたであろうものが何なのか、すぐに分かった。

彼が狐の姿でいる時に確かに見た、九本の尾だ。

今は人間の姿でいる彼の髪と同じ、黄金色のそれ。


やっぱり、彼は人間じゃないんだ。

そんなあたしの考えを象徴するように、彼の後ろから見えていた九本の尾が、陽炎のように静かに揺れて消えた。

そうして彼は、再び魅惑的な深い声音で話し出す。


「夏といっても今は初夏なのですから、夜は気温が下がります」

「そう……。だからって、あたしに触らないで」


あたしの言葉を聞いた彼の顔に、一瞬、何とも言い難い曖昧な表情が浮かんで見えた。

何を思ったのかなんて、興味は無いしどうでもいい。

例外はあるけど──でも、あたしの言う事は絶対なんでしょう?

あたしは立ち上がって、後ろにいる彼を見もせずに言い放った。


「それと、必要以上にあたしに近付かないで」


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