優しい手①~戦国:石田三成~【完】

突然のキス

月が白い夜だった。


そのおかげで外も明るく、三成が居なくても桃は布団に入ることができ、しかも泣き疲れてうとうとしはじめていた。


すらり。


障子が開き、そちらの方向を向いて寝ていた桃は目を開ける。

月光を背負って入口で立っているのは、三成だろう。

逆光になっていてその顔は見ることができなかったが、桃は声をかけずに大きな目で三成を見ていた。


「起きていたのか」


声をかけられたが、もう眠りに落ちる寸前だったのでその返事はくぐもった声となる。


「ん…」


「疲れただろう、早く寝なさい」


そう言いながら同じ布団に入る三成の胴の部分の浴衣を引っ張った。


「迷惑かけてばっかだよね…私、早くオーパーツを見つけて帰るから…それまでよろしくお願いします」


――また胸が軋んでは締め付けられる思いになり、三成は寝返りを打って桃と向き合う。

月明かりに照らされるその白く可憐な顔…


普段あまり口にしない酒を豪快に飲んだことで抑制力を失っていた三成は、思うがままに桃を引き寄せて抱きしめた。


「…み、三成さん?」


――驚いたのは桃だ。

普段は布団に入る前に「1人で早く寝なさい」だの説教をされるのに、今日に至ってはまるで態度が違う。


だがその身体のあたたかさは気持ちよくて、またすりすりと頬を寄せていくと…耳元で囁かれた。


「…やはり帰ってしまうのか?」


「…え…」


思いもよらぬ質問に桃は顔を上げてまじまじと三成の顔を見た。

その顔はやはり綺麗で…けれどどこか苦しそうに眉根を寄せている。


「うん。だって…私はこの時代の人間じゃないもん。だから早く帰って…」


「俺が預かったものを返さない、と言ったら?」


…三成に預けたネックレス。
あれがないと、元の時代には戻れない。


「あれがないと帰れないし…どうしちゃったの?お酒くさいよ?飲みすぎちゃったの?」


すん、と鼻を鳴らした時――


三成の唇が、重なってきた。


「ん…っ!」


「桃…行くな。俺が守ってやる、だから…離れるな」


再び、三成が覆い被さってきた。
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