冬うらら~猫と起爆スイッチ~

11/30 Tue.-7

□35
 出られねぇ。

 風呂上がりのカイトは、メチャクチャ緊張しながら、部屋に戻る扉の前にいた。

 このドアを開けたら、またメイのいる場所に戻るのだ。

 けれども、その勇気がなかなか起きなかった。

 風呂という時間だけでは、自分の信用は回復しなかったのである。

 しかし、いつまでもこうしているワケにもいかず、カイトはようやく覚悟を決めてドアを開けた。

 ガチャッ。

 勢い込んで開けたはいいが――

 あ?

 カイトはまばたきをした。

 あると予想していた、あの黒髪が見えなかったのである。パジャマも。

 もう寝てしまったのかと、ベッドの方へ行きかけるが、毛布の中に身体の厚みはなかった。

 枕はベッドの側に落ちたままで。

 いねぇ!

 室内をぐるっと一周するまでもなく、それははっきり分かった。

 彼女は、この部屋にいないのだ。

 まさか…。

 出て行ったんじゃ。
 冷たい手が、カイトの心臓を触った。
 全身が、一瞬にして凍り付く。

 バカヤロウ!

 その感触を振り払うように、カイトの身体は急速解凍された。

 どころか、一気に沸騰した。

 足にロケットスターターをつけたかのように、彼は駆け出していたのである。
 ドアを壊れんばかりの勢いで開け、廊下に飛び出す。

 左右を見るが、やはり人影はない。

 カイトは、迷うことなく階段の方へと走った。
 きちんとボタンを止めていない、パジャマの裾を翻して。

 メイ!

 彼女の名を心で叫びながら、彼は階段にさしかかった――ところで、急停止した。

 いたのだ。

 カイトが探していたメイは。

 階段の下の方に。

 いまから部屋に戻るところだったのか。登って来ようとしている状態で。

 けれども。

 状況など、どうでもよかった。

 彼女は、そこにいたのである。
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