柾彦さまの恋
桜ものがたり 第二章 柾彦さまの恋

追 憶

 
 鶴久柾彦(つるくまさひこ)は、車窓から夕暮れの川原を眺めていた。 

 茜色に染まる秋桜の帯は、愛しい初恋の姫・桜河祐里の笑顔と重なる。


 儚げでありながら、強い意思を持った気高き姫。

 守り人としてすぐ傍に居ながら、手の届かなかった姫。

 それでも、同じ時間を共有できるだけで嬉しかった。


 その姫も、幼き頃から慕い続けていた光祐さまと結婚して

桜河家の若奥さまとなり、双子の母となっていた。


 手が届かないと分かっていても、恋して止まないのは姫だけだった。


 初めて会ったのは、図書館。

 姫は、一番高い書架に背伸びして本を引き出していた。
 
 その横顔の聡明で美しかったこと。

 一目で恋をした。



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