愛を待つ桜

(1)息子

5月5日、子供の日のパーティが如月邸で行われた。


自由が丘にある如月邸は、一条の実家ほど大きくはない。
だが、必要充分な愛情に包まれた『家庭』と呼ぶに相応しい、温かな家であった。


そしてその空間に、恐ろしいほどの違和感を漂わせる人物がひとり……一条聡だ。


「どうしていらっしゃるんですか?」


顔を見るなり、険の含んだ声で夏海は問い質した。


「私が友人の家に居たら悪いか?」

「いえ……ただ、今日は子供の日のお祝いですから。一条先生には、関係のないことだと思いまして」

「……たまたまだ」


ろくな言い訳すら思い浮かばず、聡は視線を遊ばせながら答える。

だが「関係ない」に力を入れて言われると、居心地が悪いのも事実であった。



実は、ゴールデンウィークに入る直前、如月から声を掛けられた。


『5月5日に、子供の日のパーティをするんだ。お前も来るか?』

『は? 何だそれは?』


如月が双葉と結婚して10数年になる。
だが、子供の祝い事に誘われたことなど1度もなかった。
それが、見た目より繊細な聡への気遣いであることは間違いない。


『いきなり、どうしたんだ? そんなこと今まで』

『織田くんが、子供を連れて来るぞ』


――そのひと言で、聡は如月の家を訪ねることに決めたのだった。


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