リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】

◆牧野孝平◆

朝、八時を少し過ぎたころに出社する。
それが、課長になってからの牧野の生活パターンだった。

道すがら、ドライブスルーのあるコーヒーショップに立ち寄る。
熱めに注文するコーヒーは、会社に着く時分には、ほどよく冷めている。
コーヒーを飲みながら、まずは、家から持ってきた新聞に、牧野は目を通す。
インターネットの世界でも、大抵の情報は入ってくる。
世の中の動きは、それなりに把握できる。
けれど、地方都市の小さなできごとは、新聞に目を通したほうが早かった。

そして、今日もいつもの時間に牧野は出社した。
新聞に一通り目を通し、それからおもむろにパソコンを立ち上げる。
昨夜は夕刻に出向いた客先から直帰したので、まずはメールをチェックする。
ボコボコと、受信ボックスにメールが届いた。
その中に実のあるメールがどれだけあるかは、謎だ。
その間に、サーバーの共有フォルダーを覗く。
あるドキュメントファイルのタイムスタンプを見て、やれやれというように、小さく息を吐き零す。


(あいつ、また、終電だったな)
(今日くらいは早く帰って、明日に備えろと、あれほど言ったのに)
(しょうがねえなあ)


思わず、顔を上げ、まだそこにいるはずのない彼女が、昨夜も一人で、そこにいた姿を思い浮かべた。
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