ランデヴー

<脆く儚い幻想なのか>

私が自分を着飾ることに手を抜かないのは、陽介という存在があるからに他ならない。



会社で会話ができなくても、私という存在をいつ見ても意識してもらえるように。


別の女性のものだとわかっていても、その女性よりも輝いていられるように。



会ったことも話したこともない人に対抗意識を燃やし、私はそんな不毛な思いを日々抱いていた。



そのせいか、例え陽介に会えない日でも、見せたい相手がいなくても、私にはそれが洗っても消えないシミのように深く染みついている。


誰よりも輝いていたい、と。



その日私は、1年のうちに数える程しか着る機会のない浴衣に、腕を通した。


数着ある中で、今日は艶やかな赤い浴衣を選んだ。



ネイルはピンクのグラデーションにラメを重ねてもらった。


長いストレートの髪はアイロンで巻き、アップにして華やかさを出す。


メイクも会社に行く時より気合いを入れて、夜でも映えるようにした。
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