優しい手①~戦国:石田三成~【完】

この身に宿るもの

前世からきっと深い縁がある――


謙信も桃もそう感じていた。

だから毘沙門天が引き合わせてくれたのだ、と。

根拠はないが、出会った時から謙信は桃の中で特別な存在だった。


――毘沙門堂に籠もる、という謙信の邪魔をしないようにと立ち上がろうとすると、腕を引かれて謙信を見下ろした。


「…なに?」


「…なんでもないよ。でもここに居てほしいんだ。もう君を悲しませるようなことは言わないから、ここに居て」


「…うん」


白き清廉潔白な男――


“ずっと待っていた”と何度も言われた。

そう言われる度に嬉しくて、元の時代に帰らなければならないことを忘れて、のめり込んだ。


「…静かだね」


「うん。ここは私と君以外入って来れないからね。…桃?顔色が悪いけど…大丈夫?」


「うん、なんかちょっと気分がわる……、うっ」


「桃?!」


突然吐き気が襲ってきて、必死に堪えて涙目になった桃は毘沙門堂を飛び出て厠に引きこもり、吐いた。


「ごほ、ごほっ!」


「桃、大丈夫?薬師を呼んでおくから、落ち着いたら出ておいで」


……吐き気…?


これはまさか――


「…悪阻(つわり)、か」


厠の外で腕を組んで待っていた謙信がぽつりと呟いた。


「謙信公?桃は一体…」


城内が騒がしくなったので不審に思った三成が顔を出しに来ると、謙信は静かに事実を告げた。


「桃が今、吐いてる。…悪阻かもしれない」


「…!俺か…貴公の…」


「この際それはどうでもいいんだ。私は桃を帰したくない。もっと桃を説得すべきだと思ってる。君はどう思う?」


「俺は最初から帰したくない、と言っている。桃の選択を尊重しよう、と言っていたのは貴公だぞ」


「…そうだね。ああでも…私の強がりも限界に来たかな」


はじめて愛しいと思った女子。

この手に抱いた時はどれだけ毘沙門天に感謝したことか――


「桃、大丈夫か」


「うん…。ごほっ」


中からはまだ桃が吐き続けている苦しそうな声が聴こえる。


同じ想いになって、謙信も三成も唇を噛み締めた。
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