弟矢 ―四神剣伝説―

二、嘘と罠

不意に、ガサッと草むらが揺れ、瞬時に全員が身構えた。

しかし、そこから姿を現したのは……。


「乙矢さん! お前さん無事だったんだね」

「お、おゆきぃ? お前、なんだってこんなとこにいるんだ!? 宿場を出たらマズイだろ? バレたら、ただじゃ済まねぇぞ!」


宿場の船女郎、おゆきだった。

飯盛り女郎の更に下、まともな布団の上で客も取れない彼女らは、普段、宿場から出ることはできない。無論、それを見張っていたはずの乙矢がここにいるのだから、あっさり抜け出したのかも知れないが。もし、金に困って街道沿いで客でも取れば、すぐにお縄になる。他の宿場町に行こうにも、通達が回っているはずだ。見つかれば送り返され、酷い折檻を受けることになる。


「乙矢さん、お六ばあさんを殺したのは、お前さんかい?」

「バ、バカなっ! 俺がなんで」

「でも、お前さんってことになってんだよ。お六殺しの下手人として、捕えた者に褒美が出るって。でも、あたしはあんたじゃないって信じてる。乙矢さん、あたしと一緒に逃げとくれよ」


おゆきは乙矢の袖を掴み、泣くように言った。


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