琥珀色の誘惑 ―王国編―

(10)戸惑いのとき

二秒後、舞の視界は真っ白になる。


「お許しを!」


短い言葉と共に、ヤイーシュが舞に覆い被さった。暴漢との間に立ちはだかり、ガラス瓶はヤイーシュの背中に当たる。

後はもう何が何だかわからない。

怒号と悲鳴が乱れ飛ぶ中、ターヒルによって舞とシャムスは再びリムジンに押し込まれた。

そして、運転手と助手席に乗った護衛兵に、


『王太子の宮殿に! 何があっても止まらずに! よいなっ』


ターヒルはアラビア語でそんな命令を出したと言う。そのままドアを閉め、彼はヤイーシュの元に駆け寄った。


舞が後部座席の窓越しに外を見ると、ヤイーシュの背中は真っ赤に染まっていた。

だが、果敢にも起き上がり、暴漢に飛び掛ってる。


「な、何? 何なの? どうなってるのっ!?」

『大丈夫ですわ。大丈夫……』

「シャ、シャムス?」

「あ、失礼致しました。大丈夫でございます、お妃様。護衛の車も追いつきました。無事に宮殿まで」

「わたしじゃないわよ! ターヒルとヤイーシュを置いて来ちゃったじゃない。ヤイーシュの背中に瓶が当たったのよ。あの色……怪我をしたのかも知れない。すぐに戻って!」


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