囚われジョーカー【完】

━introduce━




「菫ー、そろそろ行くぞ。」

「ッ、待って春海。は、吐きそう…!」

「(吐きそ…。)はい、時間ないからー。」



抵抗と言うより、悪足掻き虚しく私は春海にずるずると二の腕を掴まれ引き摺られた。


ここ、重要なのはまだ床に座っている私を本当に引き摺って玄関まで連れて行ったということ。



靴を履く春海を睨みながらも、私も服装に合うよう白いパンプスに脚を滑り込ませた。


ひんやりと足裏を伝う冷たさが、今私のある現状が本物だと思い知らされる。



大袈裟、なんてものではなく。緊張から本当に可笑しくなってしまいそうだ。


今からドキドキと暴れる心臓を白のジャケットを掴むようにして押さえる。

数歩先を歩く春海の後ろをゆっくり着いて歩けば、その距離はひらいていくばかりで。



面倒そうな、怪訝そうな目で振り返り足を止めたので私もそれに比例して足を止めた。




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