マスカケ線に願いを

 杏奈の迷い


 近くの映画館に来た私達。

「映画なんて、久しぶりだな」
「私も」

 こうやって一緒に歩いていると、なんだか学生時代に戻ったような、照れくさい気分になる。
 ちらりと私を見たユズが、そっと左手を差し出してきた。
 意図を悟った私は、少しだけ迷ったけど、その手をとった。

「他の人にはどう見えてるんだろうな」
「いい年をして、手なんかつないでる! じゃないかな」

 ユズは苦笑して、私を見た。

「杏奈も大概可愛くないな」
「可愛くないなら、なんで一緒にいるの?」

 私も笑う。ユズは空いてる手で私の額を突く。

「そういうとこも好きだから」

 そんなことを言うから、私は赤面した。


 思えば、今まで付き合ってきた人達は、私に対してこんなふうには接してこなかった。しっかりしている私を隣に並べて、見世物のように扱っていた気がする。
 なんでも器用にこなす私を、一人にして、自分勝手に歩いてたような気がする。

 ユズみたいに、私を子ども扱いする人は、初めてだった。


「さて、どの映画観るかな」
「ロマンスとかそういうのは苦手」
「俺も」

 そして、ふと気づいた。

「……私、男の人と一緒に映画観るの初めて」

 ユズは驚いたように私を見た。
< 104 / 261 >

この作品をシェア

pagetop