触れないキス

愛しい思い出





小学3年生になったばかりの、麗らかな春の日。

消毒薬の匂いが鼻をつく、真っ白で清潔な長い廊下で

私は彼に出逢った。


窓から射し込む春の日差しに照らされた真っ白な服と、

同じくらい白くて綺麗な肌、切れ長で大きな瞳はキラキラと輝いていて……

まるで天使みたいな姿に、車椅子に乗った私はただボーッと見つめるだけだった。


そうしたら彼は私に気付いて、「こんにちは」って、これまた透き通るような声で挨拶をしてくれたんだ。


「こっ……こ、ここんにちは!」


ビックリしたあたしはしどろもどろで、咬みまくりながら90度のお辞儀をした。

その時彼は、あたしを見てぷっと吹き出すと、あろうことか「ニワトリみたい」と言ったのだった。

< 7 / 134 >

この作品をシェア

pagetop