LOVELY☆ドロップ

臆病者。


side:Jun Kusakabe



真っ青に晴れ渡った空から車の窓に向かって明るい朝の光が差し込み、昨日の雨が嘘のように穏やかだった。


そんな中、しかし車内はその言葉とはほど遠く、穏やかでも安らかでもなかった。



『時刻は午前7時になりました。ニュースをお届けします』



シンと静まり返っている中、車内に設置しているAMラジオから発せられる女性の声だけが響く。


しかし、ひとりだけはその空気に呑(ノ)まれていなかった。

彼女――美樹(ミキ)ちゃんとはもう二度と会わないことを知らない幼稚園の制服でもある青いワンピースを着た祈(イノリ)だけは助手席で鼻歌を歌い、楽しげに足をぶらつかせたりしていた。


美樹ちゃんの家がある春日1丁目は、ぼくの家があるマンションの前の大きな交差点から右に曲がり、ふたつ目の交差点をそのまま真っ直ぐ進めば見えてくる。


車での所要時間は約15分程度。

……のはず、なんだが今日は月曜日で通勤の車が多い。進んでは止まり、そして赤信号につかまる。

この動作を繰り返していた。



もう少し時間はかかりそうだ。

かく言う祈は9時から幼稚園があり、美樹ちゃんを送った後食事をしてそのまま向かおうと思っていた。

ぼくは、といえば、午後から撮影の仕事が入っている。

今日は美樹ちゃんの一件で祈の弁当を用意できなかった分、食材をすぐに解凍し、あとで幼稚園に届けなければならない。

そして洗濯やらを済ませたらすぐに仕事へ向かうのは毎日の日課だ。


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