桜が求めた愛の行方

5.勇斗と要人

話し合いの後すぐ、勇斗はさくらを連れて
両親に謝った。
そして、その足で藤木家に行き結婚の話を
具体的に進めた。

翌日から、ついていくのに戸惑うほどの
慌ただしい日々が始まった。

『明日もこちらに7時にお迎えに上がります』

『わかった、お疲れ様』

ザ・トキオのエントランスで田所に見送られ
勇斗はスイートへ戻った。

実は脅しのつもりで、本当は売りになど
出されていないと思っていたマンションは、
間違いなく売りに出されており、
差し止める間もなく次の買い手がついて
しまっていた。

完成前の段階ですでに完売だったもんな。

俺だって業界に顔の利く仲間の崇に頼んで
強引に購入した物件だったんだから、
仕方ないよな。

3ヶ月後にまた引っ越す事を考えると、
面倒だから仕方なく実家に戻ろうと
思っていたところに鶴の一声だ。

《そのままザ・トキオに居るがいい》

じい様がそう言うならと甘えたが、
流石にスイートルームに居座るのは気が引けて移ろうとすると、

《ここはもう勇斗様のホテルなのですから
 問題はありませんよ!》

今度は総支配人の立木の一声だ。
断る理由がないから、結婚式まで
そのまま居ることにした。

上着を脱ぎ捨てネクタイを外すと、
ドサッとソファーに腰掛けた。

佐伯商事での仕事は……
散々研修で学んできたことの殆んどが
実は会社には関係ないものだった。

むしろ、全ては藤木で生かされるであろう。

『まったく田所のやつ』

まったく喰えぬ男だ、
だから俺に着いていたとも言わないで。

本当に貿易業に必要か?と問う俺に、何が
《将来きっとお役に立ちます》だよ。

お陰で急に専務なんて役職に就かされても
仕事がスムーズにこなせているから
文句は言えないが。

結婚後には本格的な藤木グループでの
仕事が待っている。
実は期待していると言ったら
親父は悲しむだろうか?

勇斗はウトウトしながら、さくらの父
藤木要人の事を思い出していた。
< 24 / 249 >

この作品をシェア

pagetop