桜が求めた愛の行方

9.ドレス

一時間後、
さくらはドレス選びを心から楽しんでいた。

先日は、スタッフの《お似合いです》が
機械的に聞こえて、正直どれでもいいと
思ってしまったから、
おば様の言いなりに決めてしまった。

まさか、勇斗がドレスを見てくれたなんて。

左手の薬指を観る。
ああ……どうしよう。
とりあえず、じゃないの?

『やっぱり、この二着ね…』

このお店のオーナー、緑川京子がドレスを見比べている。

お店は落ち着いた音楽が流れ、
柔らかい間接照明がゆったりとした気持ちに
させてくれる。

勇斗が貸し切りにしてくれた為、
さくらの他に誰もおらず、
京子はおしゃべりしながら、
好みのドレスを的確に選び出してくれた。

京子は勇斗の大学時代の先輩だった。

彼の大学時代の武勇伝を可笑しく
話してくれたり、内緒よと言って自分の秘密を話してくれたりする。
お客様というよりは、私を大切な仲間の
恋人として歓迎しているんだと思う。

なんだか、本当に結婚するみたい。

さくらはこんな風に自惚れるのは馬鹿みたいと
自分に言い聞かせる。

《綺麗な花嫁だと自慢させてくれ》

さっきの勇斗の言葉が耳に残っている。
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