四竜帝の大陸【青の大陸編】

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こんなにも無力であり、無能なのだと。
我は思い知らされた。

竜体で念話をとばし、赤の大陸のどこかに居るりこの『声』を探し求めたが。
りこからの返事は無かった。

念話が届かぬほど遠く離れた場所にいるのか。
それとも……『声』を発せぬ状態なのか。
我にもそれは、分からない。

神ではない我は、神になることを望まなかった我には。
それを知る術が無いのだから。

「……」

我は<赤>に着ろと手渡された衣類を術式で身に付け、城内を歩いていた。
どこへ向かうでもなく。
ただ、歩いていた。

幼生の処置を終えた<赤>は、衣類を抱えて電鏡の間に駆けて戻ってきた。
よほど慌てて幼生を溶液に入れたきたのだろう。
我の胸に衣類を押し付けてきた<赤>は、顔だけでなく全身いたるところにはねた溶液が付着していた。
そして、見事なまでに眉の釣り上がった顔をしていた。

他人にも自分にも、身なりにうるさい<赤>らしくないその様に、我が考えていた以上にあの幼生が弱っていたことを知った。
まあ、我はかまわぬ。
生きていれば、それでいい。

「……幼生は“連れて行け、おっさん”と我に言ったな。“おっさん”とは、我のことだろうか?」

我は今までにも、いろいろな呼び名をつけられたが。
“おっさん”は、いまだかつて無い。
これが“斬新な”ということか?

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