君に届くまで~夏空にかけた、夢~

真夜中の涙

今にも泣きだしそうな曇天に、一球が巨大なアーチを描いた。


たーまや。


その瞬間、誰もが息を飲み込んだし、桜花の応援スタンドは絶句と涙にのみ込まれた。


【桜花 準々決勝で散る】


縦縞のユニフォームのナインが乾いたグラウンドに崩れ落ち、震えながら這い蹲る姿があまりにも印象的だった。


涙があふれて、どうにもならなかった。


泣いてたまるか。


一生懸命歯を食いしばって抵抗したけど、込み上げる悔しさには勝てなかった。


ただ見ているだけだったおれでさえここまで悔しいのなら、じゃあ、プレーしていた者はどれほどだったのだろうか。


夏はこえーよ。


朝から晩まで拷問のような練習をこなして、吐くやつだっていた。


あんなに練習してきたのに、それでも、負けは負けだった。


それでも、桜花は驚くくらいあっけなく、散った。


ついに雨が降り出したのは試合終了の間もなくで。


それは、試合終了を待って降り出したかのような強い雨だった。


球場外の通路に雨音に交じって、先輩たちの嗚咽が響いていた。


キャプテンだった、3年の佐原先輩が震える声で言った。


「俺たちはもう、甲子園には行けません。けど……お前たちにはそのチャンスがある。今度こそ、夏をつかんで欲しい」


降り出した雨はハイスピードで勢いを増して、豪雨のような激しさになった。


通路に、その音が響いて、先輩たちの嗚咽をかき消す。


「俺たちは、桜花大附属、野球部です。だから、最後は潔く、桜花らしく散ろうと思う。あとは……あとは任せた!」


でも、


「次の夏は、すぐに来るぞ」


佐原先輩のその言葉を最後に、ゲリラのような雨音は部員たちの嗚咽でかき消され、聞こえなくなった。


雨が、降っていた。


夜になっても、ずっと、降り続いていた。


「お前らの夏は、これからだ」


佐原先輩の声が雨音に消えた日。


短い夏がひとつ、終わりを告げた。











「再起不能」


洗濯した練習着を窓辺に干して、ベッドに背中から倒れ込んだ時、メールが入った。

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