プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ

(4)ハートに火をつけて

「美羽」
 声をかけられて、私はハッとする。

「どうしたの? 今夜の君は少し違うね」

 バスローブに身を包んだ私を、抱きしめながら潤哉さんが問う。 

 私たちは帰国してからマンションを借りて住んでいる。
 松濤の家を新築するまではオフィスに近いマンションに暮らそうと決めていた。

 さっきお風呂をいただいたばかり。なんとなくぼんやりしてしまって……。


「久しぶりの本社勤務で、君もいろいろ心労があったんじゃないか?」

「菊池くんに久しぶりに会って、教育係についているって聞いて、それから森重室長はなんだかおだやかになった感じで……秘書課のメンバーも色々変わっていたし、一年半でもプライマリーは変わりましたね」

「ああ、これからが勝負だから。ロンドン初のコレクションが成功すれば、東京本社で今度はしかけていかないとならない。商品に携わるのは各部署だけれどね、ここから会社はより大きく飛躍するところだから大変になると思う」

「……そんな時に、明日の接待で離れてしまって、ごめんなさい」
「ああ、やっぱり。そのことで悩んでいた?」

 素直に頷くしかなくて、あの時のことを振り返ると、なんだか後ろめたく感じてしまう。

 頬にキスをされてローブの紐を解かれ、ベッドに二人で落ちていく。

 潤哉さんの肌の匂いや体温を感じながら、私はぎゅっと目を瞑り、視線を振り払う。

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