女王様のため息
②
待ち合わせの居酒屋に行くと、司がカウンター席で飲んでいた。
黒いポロシャツにジーンズというラフな格好だけれど、顔が整っていて、適度に引き締まった長身は、それだけで周囲の女の子からの視線を集めている。
座っているのに、背が高いってわかるのは、窮屈そうにしている足元のせいかな。横に向いて座りながら、組まれた長い脚はカウンターからはみだしている。
なんだか嫌味だな。
そんな、普段から見慣れている様子に勇気づけられながら、大きく息を吐いて。
「おまたせ」
上ずった声が、情けない。
私の声にそっと顔を向けた司は、一瞬戸惑ったような色を瞳に浮かべながらも、いつもと同じように。
「先に飲んでるぞ」
と言って、隣の椅子を下げてくれた。
「私もとりあえずビールで」
カウンターの向こうにいる顔なじみの店長さんに声をかけると、
「まいど」
と頷いてくれた。
流れるように進む会話や司の様子は、ここ数年二人で過ごしてきた時と同じで、ほっとする。
目の前で包丁を動かしている店長さんは、まさか夕べ、私が司に振られたなんて想像もしてないんだろうな。
振られた翌日に、こんなに普通に二人で飲みにくるなんて、ありえないもんね……。