女王様のため息


待ち合わせの居酒屋に行くと、司がカウンター席で飲んでいた。

黒いポロシャツにジーンズというラフな格好だけれど、顔が整っていて、適度に引き締まった長身は、それだけで周囲の女の子からの視線を集めている。

座っているのに、背が高いってわかるのは、窮屈そうにしている足元のせいかな。横に向いて座りながら、組まれた長い脚はカウンターからはみだしている。

なんだか嫌味だな。

そんな、普段から見慣れている様子に勇気づけられながら、大きく息を吐いて。

「おまたせ」

上ずった声が、情けない。

私の声にそっと顔を向けた司は、一瞬戸惑ったような色を瞳に浮かべながらも、いつもと同じように。

「先に飲んでるぞ」

と言って、隣の椅子を下げてくれた。

「私もとりあえずビールで」

カウンターの向こうにいる顔なじみの店長さんに声をかけると、

「まいど」

と頷いてくれた。

流れるように進む会話や司の様子は、ここ数年二人で過ごしてきた時と同じで、ほっとする。

目の前で包丁を動かしている店長さんは、まさか夕べ、私が司に振られたなんて想像もしてないんだろうな。

振られた翌日に、こんなに普通に二人で飲みにくるなんて、ありえないもんね……。




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