ふたつの背中を抱きしめた

3.あなたと歩む日




入学式を間近に控え引っ越しも新生活の準備も完了させていた私は今度は

「入学式の前に髪を切りたいので、オススメの美容室があったら教えて下さい。」

と強引な口実を作って会う約束をした。

女の私が男の綜司さんにそんなコトを聞くのもどうかとは思ったけれど
綜司さんはオシャレそうだし、実際とても良い所を紹介してくれた。

「僕の行き付けなんだけど、腕は確かだよ。」

そう言って連れてこられたヘアサロンは実に東京らしいセンスの店構えで
田舎娘の私は少々怯んだものの
お店の人は綜司さんの紹介である私にとても良くしてくれた。

「綜ちゃんが女の子連れて来るなんて初めてだよー。」

華麗なハサミさばきを見せながら店長のネームプレートを着けた男性はそう言った。

その情報に私は密かに心踊らせ、頬が緩みそうになるのを堪えながら
待ち合い席で店員さんと談笑している綜司さんを鏡越しに見つめた。


一時間後、ただのセミロングからお姫様のようなフェミニンミディに変身した私を
綜司さんは「可愛いよ。」と褒めてくれた。

可愛いだって!
可愛いだってー!

ココロの中で小踊りする自分と

バカ!社交辞令に決まってるでしょ!

冷静にツッコミを入れる自分がいて

私は綜司さんの真意を計りかねながらサロンを後にした。


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