泣き顔の白猫

深夜一時、二十三歳



「上下関係はきっちりしてるけど、わりと寛容っていうか……ゆるいっていうか」
「そういうものなんですか?」
「んー、うちは特別かな? ヤスさんって先輩がいて。面倒見よくて面白くて、仕事も出来る人で」

一ヶ月ぶりに店に入ったあの日から数週間、加原は、五日と開けずに『りんご』へ通っていた。

落ち着けるし、味も量もメニューの種類も申し分ない。
名波に話しかけるのは彼女の淹れるコーヒーのついでなのだと、自分には言い聞かせている。
あくまで美味しいご飯と美味しいコーヒーと、雰囲気の良い空間が目当てなのだ。

今日もまた、カフェモカの“ついで”に、名波とのお喋りに興じていた。

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