空しか、見えない

第22話

 約束の日まで、あと3か月だ。そこまで迫っていながら、ハッチのメンバーたちは次々と災難に見舞われていた。

「25歳ってさ、そういえば男の厄年なんだってな」

 ギブスをはめた足をぎこちなく床に伸ばした環が、自らそう口にする。

「まあ、厄っていうよりは、もうそれなりにみんな若くないってことなんじゃないのかな。自分が思うようには、体が動かないんだよ、きっと。そういう話、よく聞くでしょう?」

 純一は、ジンバックのお代わりを頼むのに、カウンターの向こうに、ロックグラスを滑らせる。一日の多くの時間、鍵盤を弾くのに費やされる純一の指は長くて、どこかごつごつしている。その指だって、ハッチの頃から毎日少しずつ、鍛えられてきたはずだ。25は、まだまだ上り坂の途中にあるはずなのだ。
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