女王様のため息


午後からの仕事がひと段落したのは4時を過ぎた頃だった。

株主総会の準備が徐々に始まっていて、日常業務に加わる季節物の仕事の量も増えてきた。

疲れた体を伸ばして、残業決定の残務の段取りを考えていると、さっき雨宮さんから預かった書類が目に入った。

未決箱に入っている他の書類も含めて、急いで課長に回さないといけない。

慌てて箱ごと抱えて課長の机に向かいながら。

そういえば、研修部に顔を出すように伝言されたっけ。

あー、今日は何時まで残業になるんだろう、思わず顔をしかめて大きく息を吐いた。



    *   *   *



研修部がある階は、ビルの上層階で、役員フロアに近い事もあり静かな空気に包まれている。

何度来ても慣れない温度に緊張しながら覗くと、入り口近くに座っている女の子と目が合った。

2年目だったかな、しっかりとした仕事ぶりが評判。

今日の午前中の新入社員研修も、彼女が窓口だった。

「忙しいのにごめんね、部長、いるかな」

静かな空気に添うように、小さな声で聞くと、彼女はにっこりと笑って

「はい、部長から聞いています。会議室を陣取って仕事していらっしゃいますのでご案内しますね」

立ち上がって私を案内してくれようとする彼女を慌てて制した。

「あ、いいよいいよ。会議室ならわかるから、そのまま仕事続けてちょうだい」

忙しそうな彼女に申し訳なくて、私は一人で会議室に向かった。

「あ、あの、専務もいらっしゃいますので、そのつもりで……」

「は?専務ー?あのおじさん……またさぼってるな」

「え?おじさん……」

「あ、なんでもない、ごめんごめん、ありがとうねー」

思わず『おじさん』なんて呟いた私の言葉に驚いた彼女の顔をそのままに、私は足早に会議室に向かった。
















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