焼け木杭に火はつくか?

(5)

小野聡(おのさとる)は、良太郎より二つ年上の幼馴染みだった。
もっとも、聡は小柄なうえに実年齢よりもかなり若く見える顔立ちをしているために、二人が並ぶと良太郎のほうが年上に見えた。
聡もまた、良太郎同様にこの団地で生まれ育った生粋の団地っ子だった。
幼稚園はもちろん、小学校から高校まで、良太郎と聡は同じ学校に通っていたのだが、聡と良太郎の付き合いは学校の先輩後輩というよりは、年の近い兄弟というような感じだった。
アルバムを紐解けば、生まれたばかりの良太郎と、その良太郎を不思議そうな顔で眺めている幼い聡が写っている写真がある。
それを考えると、それこそ良太郎にとって聡は、生まれたときからずっと一緒の幼馴染みと言えた。
しかし、英吾のように聡の家族と良太郎の家族が家族ぐるみの親しい付き合いをしていたかというと、そういう感じではなかった。
少なくとも、良太郎には聡の両親に関する思い出がほとんどない。その顔すら記憶に残っていなかった。
良太郎の子ども時代の記憶の中にいる聡は、いつも一人だった。
一人でいた。
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