泣き顔の白猫

五年前、二月


館町市立商業高等学校。
そこで惨劇が起こったのは、五年前、卒業を間近に控えた二月のことだった。


寒い朝だった。
朝早くに学校へ来たある男性教師が、校内の暖房を入れて回っていた。
通称を館商(かんしょう)というこの学校では、一番早く来た職員が見回りや雑務を行う決まりになっていたのだ。

その教師が、校舎の影に何かあると気付いたのは、駐輪場を開けようと校舎裏へ向かった時だった。

その瞬間は、雪の塊か、誰かが自転車でも置いて行ったのかと、そのくらいに思っていたそうだ。
しかし、あと十数メートルの距離まで近付いた時、彼の目に映ったのは、真っ赤な雪だった。

ずいぶん綺麗な色だった。

あまりに鮮やかだったので、はじめはそれが血だなんて、思ってもみなかったと言う。

白いスノートレッキングシューズが、少し汚れて転がっていた。
そこから伸びる、紺のスラックス。

青いダウンジャケットまで見えた時、彼は、はじめて状況を理解した。

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