風に恋して

熱情

「リアの様子は?」
「何も食べたくないとおっしゃって、お食事に手をつけられませんでした。私どもが話しかけてもあまり反応がなく……」

レオは机の上に溜まった書類を読みながらカタリナの話を聞いていた。読み終わった1枚を机に置いてため息をつき、視線を上げた。

「そうか。夕食はリアの好物を並べてやれ」
「かしこまりました」

カタリナが礼をして部屋を出て行く。

「レオ様、お気持ちはお察しますが、あまり刺激しない方がよろしいかと思います」

レオの隣に立っていたセストがレオの読み終わった書類をまとめながら言った。セストはレオの考えていることをすべて察しているのだろう。それでも、レオは……やめるつもりはない。

「記憶に鎖がかけられていても、身体に刻んだものは消えない」
「しかし、それこそリア様の精神が持ちませんよ」

セストが少し焦ったように言う。

リアの記憶はかなり書き換えられているように見受けられる。無理矢理記憶を引き出すことは簡単だ。王家の人間ならば、それくらいの呪文は使える。しかし、そうすると戻った記憶と植えつけられた記憶の歪で精神崩壊を起こす可能性がある。

無理矢理こじあけることは、避けたい。

「リアはさっき俺を求めた」

長い口付けの後の表情――頬を上気させ、潤んだ瞳でレオを見上げるそれはレオを熱くさせるもの。

「けれど――」
「俺が、必ず取り戻してみせる」

セストの言葉を遮ってそう言うと、レオは立ち上がってドアに向かった。

「レ、レオ様!お待ちください!リア様は今とても不安定でそんなことをしたらっ――」

後ろから聞こえてくるセストの慌てた声を遮るように、レオはドアを閉めた。
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